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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)29号 判決 1996年12月04日

神奈川県厚木市長谷398番地

原告

株式会社半導体エネルギー研究所

代表者代表取締役

山崎舜平

訴訟代理人弁護士

加茂裕邦

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

松本悟

長者義久

花岡明子

関口博

伊藤三男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成2年審判第20029号事件について、平成6年11月22日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

訴外山崎舜平は、昭和54年8月16日に出願した特願昭54-104452号の一部を分割出願した特願昭57-192055号の一部を、さらに分割し、発明の名称を「被膜形成方法」(後に「被膜形成装置」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)として特許出願(特願昭62-229329号)したが、平成2年5月8日に同発明についての特許を受ける権利を原告に譲渡し、同年5月28日にその旨を被告に届け出た。原告は、同年9月17日に拒絶査定を受けたので、同年11月8日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成2年審判第20029号事件として審理したうえ、平成6年11月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成7年1月14日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

互いに遮断できるようになっている複数の反応室と、該反応室と反応室の間において、大気から遮断された状態で基板を移動する搬送手段とを有し、各反応室が、該反応室内に反応性気体を導入する気体導入手段と、該反応室内の気体を排気する排気手段と、該反応室内に導入された反応性気体を分解・活性化する誘導エネルギーを供給する手段とを有し、前記反応室毎に個別的に反応性気体の反応を生じさせるようになっている被膜形成装置において、前記搬送手段は、複数の基板の被形成面を鉛直方向に配向する構造の保持手段を有し、該保持手段を一の反応室から他の反応室へ順次移動するようになっていることを特徴とする被膜形成装置

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された実願昭52-54176号のマイクロフィルム(実開昭53-149049号全文明細書、以下「引用例1」といい、その発明を「引用例発明1」という。)、特開昭53-89667号公報(以下「引用例2」といい、その発明を「引用例発明2」という。)及び米国特許第4116806号明細書(以下「引用例3」といい、その発明を「引用例発明3」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることはできないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨及び引用例1~3の記載事項の認定、本願発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定は認め、その余は争う。

審決は、本願発明と引用例発明1との相違点イ及びロについての判断を誤り(取消事由1及び2)、本願発明の顕著な作用効果を看過した(取消事由3)ものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(相違点イについての判断の誤り)

(1)  真空蒸着、イオンスパッタリング、CVD、またCVDのうちでも特に特殊なプラズマCVDは、それぞれ独特な手段、独特な特徴を有しており、これが出現した時期を異にし、それぞれ独自の開発経過を経てきている。そして、この点は、バッチ式から連続式への開発経過についても同じである。また、それらの各方法で、薄膜を形成できる材料の種類や特性(結晶性、その他)等にもそれぞれ適否があり、例えばイオンスパッタリングでは形成できる薄膜が、真空蒸着でも、CVDでも形成できるものではない。

また、プラズマCVDは、薄膜形成材料(真空蒸着やイオンスパッタリングのように固体ではなく、気体である。)を特殊な手段でプラズマとし、化学反応により成膜するもので、真空蒸着やイオンスパッタリングとは、その適用の仕方、その作用、得られる膜の特性その他の諸点で決定的に異なることが、最近の技術文献(甲第6、第7号証)によっても明らかにされている。そのため、それまでバッチ式でしか知られていなかったプラズマCVDを連続式とするには、まずその連続化が果して可能であるのか否かを研究し、もし連続化の可能性があるとした場合、それを可能とする上で必要な諸条件を現実に実験、検討して確かめ、個々に研究し開発を進める必要があったのである。

したがって、真空蒸着やイオンスパッタリングで用いられている手法は、直ちにCVDに適用できるものではなく、ましてCVDでも特に特殊なプラズマCVDに適用することは不可能であり、真空蒸着、イオンスパッタリングなどのPVDとCVDが、薄膜形成技術において同一の技術分野に属するものではないことは明らかである。

被告の摘示する技術文献(乙第1、第4、第5号証)には、真空蒸着とかイオンスパッタリングとか気相反応法とかが並列に記載されているだけで、それらの相互関係についても、プラズマCVDとの関係についても、何も記載されていない。

(2)  本願発明は、反応性気体をプラズマイオン化して化学反応をさせることによって、複数の基板上に順次複数の被膜を形成させるための装置であり、従来プラズマCVDではバッチ式でしか知られていなかったものを、本願発明の要旨とする諸構成の全部を一体不可分に備えることによって、初めてプラズマCVDで連続化することに成功したものである。その構成の一つでも欠ければ、もはや本願発明での所期の目的は達成できず、所期の効果も得られない。

これに対し、引用例発明1は、ただ複数の容器内を単純に真空状態にし、試料を各容器間でその特殊独特な搬送手段(甲第3号証第1、第2図)により搬送するだけのものであり、これ以上の事実は何も開示されていないし、意図されていない。すなわち、同発明の技術の直接的な対象範囲は、真空蒸着装置であり、これに加えることができるのは、せいぜいイオンスパッタリングだけであって、それ以外の対象範囲まで意図されているのではない。

したがって、審決が、引用例1における「表面処理による膜形成について具体的に開示されている処理は真空蒸着及びイオンスパッタリングであり、それらはいずれもいわゆるPVDに属するものではあるが、・・・それに限られるような記載はなく、前掲摘示した<B>(注、審決書4頁2~5行)の記載からみて、前掲摘示した<C>(注、同頁6~12行)のバッチ式による同種の問題のある技術は、対象範囲となっていると解することができる。」(審決書10頁3~10行)、「プラズマCVDを含むCVDとPVDは膜形成という同一の技術分野に属するものである。」(同頁15~17行)と判断したのは、いずれも誤りである。

また、引用例発明1は、真空蒸着装置とせいぜいイオンスパッタリングだけを技術対象とするものであるから、その表面処理手段を有する室は単なる真空蒸着用の真空室であるにすぎない。この真空室は、CVDの反応室、まして本願発明におけるようなプラズマCVD用の反応室とはなりえないものである。しかも、真空蒸着やスパッタリングにおいては、化学反応が随伴するのを極度に徹底して回避する必要があり、真空状態は正にこのために適用されるものであって、引用例発明1の真空室もこのためのものである。そうすると、引用例発明1における真空蒸着やスパッタリング、すなわち化学反応が随伴するのを極度に徹底して回避する必要がある技術が、正に化学反応そのものを利用するCVD技術、ましてその中でも特に特殊な薄膜形成技術であるプラズマCVD技術を示唆することなどありえない。

したがって、審決の、引用例1における「膜形成手段を有する室を反応室とせしめることはもともと同号証(注、引用例1)の開示していた範囲内もしくは自ずと到達し得る範囲のものである。」(審決書10頁18行~11頁1行)との判断は、誤りである。

つぎに、審決ば、「前掲摘示した<G>(注、審決書5頁14~20行)からみて、各真空室は個別の真空を維持されているとも解されるし、あるいは前掲<A>(注、同3頁12行~4頁1行)に摘示したように、各真空室は「仕切弁にてたがいに気密に隔離される」ものであって、前掲H(注、同6頁1~9行)等からして各室ごとに個別の処理が行われるものであることからして、各真空室は個別に排気手段を設置することはもともと同号証(注、引用例1)の意図している範囲のものもしくは同号証の記載から、自ずと到達する範囲のものである。」(審決書11頁2~10行)と判断する。

しかし、引用例発明1は、前述したとおり、ただ真空蒸着に関するものであるから、たとえ引用例1の<G>や<H>の記載により各真空室は個別の真空が維持されているとも解され、あるいはまた、引用例1の<A>の記載のように、各真空室が「仕切弁にてたがいに気密に隔離される」ものであったにしても、これはただ真空蒸着装置に関するものであるにすぎない。したがって、引用例1における<A>、<G>、<H>の記載によって、真空蒸着とは全く異質・別異の技術であるCVD、ましてその中でも特に特殊なプラズマCVDにおげる反応室が意図されているのではないし、引用例1の記載から自ずと到達する範囲のものでもありえないから、審決の上記判断は誤りである。

さらに、審決は、「前掲摘示の<F>(注、審決書5頁8~13行)に示されるように膜形成を行う室においては、それに必要な手段はその室毎に具備されていることからして、甲第2号証(注、引用例2)から摘示した<I>、<J>(注、同6頁11行~7頁4行、同7頁5行~8頁1行)に示されるようにプラズマ反応には反応性気体を導入する気体導入手段及び導入された反応性気体を分解・活性化する誘導エネルギーを供給する手段を具備せしめるものであるから、それらを甲第1号証(注、引用例1)の膜形成を行う室に具備せしめ、前記室毎に個別的に反応性気体の反応を生じさせるようすることもごく自然に到達するところである。」(審決書11頁11行~12頁1行)と判断する。

しかし、引用例2(甲第4号証)の記載、特にその図面から明らかなとおり、そこに示された反応容器はベルジャーである。この形状は、移送や遮断を適用できる形状とはほど遠いものであり、いったいどのようにすれば、引用例発明2のベルジャーが現実に引用例発明1の膜形成を行う室と切り換わるのか不明である。また、引用例発明2はプラズマCVDを採用したものであり、その反応性気体を導入する気体導入手段や導入された反応性気体を分解・活性化する誘導エネルギーを供給する手段を、プラズマCVDとは異質の引用例発明1の表面処理を行う室に具備せしめたり、前記室毎に個別的に反応性気体の反応を生じさせるようにすることは、著しく不自然である。したがって、審決の上記判断は誤りであり、「前記差異はいずれも格別のものではなく、当業者が適宜採択し得る範囲内のものである。」(審決書12頁2~4行)との判断も誤りである。

2  取消事由2(相違点ロについての判断の誤り)

引用例発明1は、前述のとおり真空蒸着のほかはせいぜいイオンスパッタリングに適用できるだけのものである。また、引用例3には、審決で摘示された<K>、<L>(審決書8頁3~11行)の記載があり、複数の基板の被形成面を鉛直方向に配向する構造の保持手段を有する搬送手段が示されているが、これは正にスパッタリング装置そのものについての記載である。これに対し、本願発明は、前述したとおり、複数の各反応室でそれぞれ反応性気体をプラズマ化して化学反応を行わせ、これにより鉛直に支持された複数の基板上に複数の被膜を形成するためのものであり、CVD装置、その中でも特に特殊なプラズマCVD装置に関するものであって、スパッタリング装置とは全く異質、別異のものである。

したがって、審決が、引用例3には「複数の基板の被形成面を鉛直方向に配向する構造の保持手段を有する搬送手段が記載されており、それは本願発明及び甲第1号証(注、引用例1)のそれと同じ基体表面への薄膜形成用のものである」(審決書12頁8~11行)と判断したことは誤りであり、この誤った判断を前提にして、引用例発明1の搬送手段に代えて引用例発明3の搬送手段を採用することは、「別段工夫を要することではなく、当業者が適宜採択し得る範囲のものである。」(同頁12~14行)と判断したことも誤りである。

3  取消事由3(顕著な作用効果の看過)

審決は、本願発明と「甲第1号証(注、引用例1)に記載の技術との差異は、従前の技術常識を踏まえれば自ずと到達し得る範囲のものあるいは甲第2及び3号証(注、引用例2及び3)に記載の技術から適宜採択し得るものであって、その差異は格別のものではない。」(審決書12頁16~19行)との誤った判断を前提にして、「それを採択したことにより奏する効果も予測し得る範囲のものであって、本願発明の効果もその域を出るものはない。」(同頁20行~13頁2行)と判断し、本願発明の有する顕著な作用効果を看過したものである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。

1  取消事由1について

(1)  真空蒸着及びイオンスパッタリングなどのPVDとプラズマCVDを含むCVDの両者が、薄膜形成技術において同一の技術分野に属するものであることは、本願出願前に周知のことであり、CVDやプラズマCVDは、原告が主張するような特殊なものではない。

すなわち、電気メッキ、無電解メッキ等の溶液系の膜形成技術、溶融亜鉛メッキ等の融液系の膜形成技術及び蒸着、イオンスパッタリング等の気相系の膜形成技術は、表面処理技術として古くは一まとまりの技術とされていたものである(乙第1号証)。最近では、電子工業技術の発達に伴い、それに関係の深い気相系の膜形成技術が大きく発展し、それのみを別途に一まとまりの技術、一技術分野として捉えることも行われており、気相系で基板上に薄膜を形成するという共通点のある技術に関しては、新たに開発された技術についても、この中に取り込んで同様の扱いがされており、プラズマCVDも同一の技術分野に属するものである(乙第5号証)。

また、真空蒸着及びイオンスパッタリングなどのPVDとプラズマCVDを含むCVDは、いずれもバッチ式の有する短所を解決する必要のあった技術であり、膜形成時には不純物の存在を嫌うものであって、連続化を必要とされていたのであり、その際には、連続する室相互間では物質移動による汚染回避のために隔離遮断をする必要があった。これらのことは、本願出願前に周知のことであり、プラズマCVDにおいても例外でないことは明らかである。

(2)  本願発明が、原告の主張のとおり、真空蒸着やイオンスパッタリングの場合のように化学反応を回避するのではなく、化学反応そのものを利用することは認める。しかし、「電子材料」1976年10月号所収の論文「拡散・CDV技術」(乙第4号証)の記載によれば、本願出願前に、プラズマCVDによる連続薄膜形成装置が存在したことは明白であり、本願発明が初めてプラズマCVDで連続化することに成功したものであるとする原告の主張は、失当である。

また、引用例発明1は、表面処理装置を備える室(膜形成室)の表面処理手段(膜形成手段)を変更するだけで共通した装置で薄膜形成できることを示しており、しかも、その膜形成室に具備すべき膜形成手段については何ら特定していない。そして、引用例1自体には、化学反応を伴う薄膜形成手段を除外することを示すところも示唆するところもない。

さらに、引用例発明2に示されたプラズマCVDに必要な反応性気体を導入する気体導入手段や反応性気体を分解・活性化する誘導エネルギーを供給する手段を、引用例発明1に具備させることは、特段の工夫を要することではなく、引用例発明1に示された膜形成室に各種の膜形成法を採用し、それに適した膜形成手段を具備するところの範囲内のものといえる。審決は、原告が主張するように、引用例発明1の連続式膜形成装置と引用例発明2のバッチ式の装置を、そのまま結合するという判断を示したものではない。

したがって、原告の主張にはいずれも理由がなく、審決の相違点イの判断(審決書10頁2行~12頁4行)に誤りはない。

2  取消事由2について

原告主張の引用例発明1が真空蒸着及びイオンスパッタリングだけに適用できるものであること、本願発明がスパッタリング装置とは全く異質、別異のものであることがいずれも誤りであることは、前述したとおりである。

また、真空蒸着やイオンスパッタリングと、CVDによる膜形成は、同一技術分野に属するものであるから、スパッタリング装置を前提とする引用例発明3の搬送手段を、プラズマCVDによる膜形成の搬送手段として採用することは、何ら工夫を要することではない。

したがって、原告の主張には理由がなく、審決の相違点ロの判断(審決書12頁6~14行)に誤りはない。

3  取消事由3について

以上のことから明らかなとおり、本願発明で採択された技術のうち引用例発明1と相違する点は、いずれも適宜採択できる範囲内のものであって、それらを採択したことによる効果、すなわち本願明細書に記載された効果も自ずとその範囲内のものであり、格別のものではないから、「それを採択したことにより奏する効果も予測し得る範囲のものであって、本願発明の効果もその域を出るものはない。」(審決12頁20行~13頁2行)との審決の判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点イについての判断の誤り)について

(1)  本願発明の要旨及び引用例1の記載事項の認定、本願発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定、本願発明が真空蒸着やイオンスパッタリングの場合のように化学反応を回避するのではなく、化学反応そのものを利用すること、引用例発明1の技術が真空蒸着だけでなくイオンスパッタリングをも対象とするものであることは、当事者間に争いがない。

昭和52年12月25日2版発行「金属表面技術便覧(改訂新版)」(乙第1号証)には、「薄膜生成技術として、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング(イオン化静電メッキ)など気相成長があるが、それぞれの概略を述べる。(1) 真空蒸着は・・・(2) 陰極スパッタリングは・・・(3) イオンプレーティング(イオン化静電メッキ)は・・・(4) 気相成長はガス状物質の化学反態(熱分解、化学合成など)によって固体状物質が基板上に堆積するもので、化学的手法である。」(同号証539頁26行~540頁8行)との記載が認められ、また、昭和53年3月30日2版発行「薄膜作成の基礎」(乙第5号証)には、薄膜作成方法として、蒸着法、イオンプレーティング、スパッタなどとともに、低圧CVDやプラズマCVDを含む気相成長法が記載されていることが認められる。

上記の記載によれば、真空蒸着やイオンスパッタリングなどのPVDと、低圧CVDやプラズマCVDなどのCVDとは、いずれも基板上に薄膜を形成するという同一の技術分野に属するものであることが、本願原出願前周知の事柄であったものと認められる。

また、上記の記載並びに特公昭49-16221号公報(乙第2号証)、特開昭51-141587公報(乙第3号証)及び「電子材料」1976年10月号所収の論文「拡散・CDV技術」(乙第4号証)の記載によれば、真空蒸着及びイオンスパッタリングなどのPVDとプラズマCVDを含むCVDは、いずれも膜形成時には不純物の存在や汚染を嫌うものであり、膜形成処理においてバッチ式を改良してこれを連続化することを技術課題としていたものであって、その際には、連続する室相互間での物質移動による汚染回避のために隔離遮断をする必要があることも、本願原出願前に周知のことであったものと認あられる。

そうすると、真空蒸着やイオンスパッタリングが化学反応を回避し、本願発明などのCVDが化学反応を利用するという相違があることを考慮しても、真空蒸着及びイオンスパッタリングなどのPVDとプラズマCVDを含むCVDは、薄膜形成という同一の技術分野に属し、その膜形成処理を連続化して行うという共通の技術課題を有していたものと認められ、この認定に反する原告の主張は採用できない。

なお、前記「拡散・CVD技術」(乙第4号証)には、「LFE社のプロダクションライン用プラズマCVD装置System-8000を図8に示す。これは、従来のLFE社のプラズマ装置を踏襲してコイル方式をとっている。図からもわかるように、これまでのバッチ方式からカセットによるインライン方式に切換え、ローディングの自動化を行おうとしている。」(同号証58頁左欄13~18行)との記載が認められ、この記載によれば、本願原出願前にプラズマCVDによる連続薄膜形成装置が存在したことが明らかであるから、本願原出願当時、プラズマCVDによる連続薄膜形成装置が新規であったとする原告の主張は、失当である。

(2)  ところで、引用例1(甲第3号証)には、審決認定の<B><C><D><H>の記載を含む以下の記載があることが認められる。

「この考案は試料に真空蒸着・イオンスパッタリングなどの表面処理を施す場合の真空装置における試料の搬送装置に関するものである。従来真空装置において試料に種々の表面処理を行う場合には、先ず試料を容器内に収め、容器毎に10-4mmHg程度の真空状態を造り出し、バッチ方式で処理されるのが通例であり、このため生産性をあげるには同様の処理装置を数多く併設しなければならず、設備費が嵩むという欠点があった。この考案は表面処理などの装置を併設した真空装置の前後にも真空チャンバーをシリースに配設し、従来のバッチ方式での処理を多大の設備費をかけることなく連続方式に近い方式で行えるようにした生産性のすぐれた真空装置における試料搬送装置を提供することを目的としたものであり」(同号証明細書1頁16行~2頁11行)、「つぎにこの真空装置における試料搬送装置の動作について説明する。この真空装置の真空チャンバーの(B)室および(C)室に表面処理装置たとえば蒸着装置が併設されているものとすると、真空チャンバーの(A)室は試料搬入室、(D)室は蒸着処理ずみの排出準備室であり、(B)、(C)両室が第1蒸着、および第2蒸着処理室となる。」(同5頁12~18行)、「従来の試料を容器内に収め、容器毎に10-4mmHg程度の真空状態を造り出し、さらにこの実施例におけるように蒸着を2段階で行うバッチ方式の場合には(T0+T1)時間の2倍近い時間を要する。したがって、2(T0+T1)/T0もしくは2(T0+T1)/T1倍近くの同様処理装置を数多く設置しなければこの考案の装置と同等の生産をあげることができない。またこの考案の装置によるときは真空中に入れる部品の数が少くてすみ、結果としてその放出ガスによる悪影響も少い。」(同9頁18行~10頁8行)。

これらの記載によれば、引用例発明1は、真空装置を用いて試料に表面処理を施す場合の搬送装置に関するものと認められ、その表面処理方法としては、真空蒸着・イオンスパッタリングが具体的に明示されているが、これに限定する旨の記載やその示唆はなく、また、真空装置の真空チャンバー室の表面処理装置の一例として真空蒸着が示されているが、それに特定されるものではなく、このことは必要に応じてその他の表面処理方法を採用できることを明らかにしているものと認められる。

(3)  以上の事実によれば、引用例発明1においては、従来からバッチ方式で処理されてきた真空装置を用いる表面処理方法であれば、真空蒸着やイオンスパッタリングに限定されず、一般のCVDやプラズマCVDもその技術対象に含まれるものと認められ、そうすると、引用例発明1における表面処理手段を有する真空室は、表面処理手段としてプラズマCVDを採用する場合には、そのための反応室とはなりうるものであると認められる。

したがって、審決の、「甲第1号証(注、引用例1)における膜形成手段を有する室を反応室とせしめることはもともと同号証の開示していた範囲内もしくは自ずと到達し得る範囲のものである。」(審決書10頁18行~11頁1行)との判断に、誤りはない。

(4)  また、引用例1(甲第3号証)には、審決認定の<A>の記載、すなわち、その実用新案登録請求の範囲に、「開閉自在の仕切弁にてたがいに気密に隔離される複数個の連設された真空チャンバーと、これら真空チャンバー内を貫通しその床上に敷設された一連のレールと、レール上を移動可能とされ受動ピンをもつ試料積載用台車と、各真空チャンバーごとに設けられ外部モータによって気密真空壁貫通駆動軸を介して駆動されるエンドレス駆動ピン送り装置とよりなり、前記受動ピンをこの駆動ピンに係合させてなる真空装置における試料搬送装置」(同号証明細書1頁6~15行)との記載があり、また、その考案の詳細な説明には、「各真空チャンバー(1)間の台車の出入、外部と真空チャンバー(1)間との台車の出入にあたっては、気圧のバランスを十分に考えた上真空装置の効率的な運転を考慮して、たとえば運河の閘門を出入する場合の水位の調整と対比される気圧調整がなされることはいうまでもない。」(同8頁15~20行)との記載がある。

これらの記載と前記(2)の記載を総合すると、引用例発明1における各真空室は、個別に真空を維持され気密に隔離されるものであり、各室ごとに個別の表面処理が行われるものと認められ、このことを考慮すると、各真空室が個別に排気手段を設置することは当然のことと認められる。したがって、審決の認定(審決書11頁2~10行)に誤りはない。

原告は、引用例発明1は真空蒸着に関するものであるから、特殊なプラズマCVDにおける反応室は意図されていないとするが、これが誤りであるととは、前記(3)で述べたとおりである。

(5)  引用例発明2が、プラズマCVDを採用したものであり、その反応性気体を導入する気体導入手段や導入された反応性気体を分解・活性化する誘導エネルギーを供給する手段を具備するものであることは、当事者間に争いがない。

したがって、それらのプラズマCVDの手段を、基板への薄膜形成という共通の技術分野に属する引用例発明1の膜形成を行う室に設置し、各室ごとに個別的に反応性気体の反応を生じさせるようにすることは、前記で述べたことと同様に、当業者にとって自然なことといえるから、審決の認定(審決書11頁11行~12頁1行)に誤りはない。

原告は、引用例発明2の反応容器であるベルジャーを引用例発明1の膜形成を行う室と切り換えられないと主張するが、審決は、引用例発明1の連続式膜形成装置に引用例発明2のバッチ式の装置を単にそのまま結合するという判断を示したものではないことは明らかであるから、原告の上記主張は失当である。

(6)  以上のことからすると、本願発明と引用例発明1の間の差異は当業者が適宜採用できる範囲を出ないものということができ、審決の「前記差異はいずれも格別のものではなく、当業者が適宜採択し得る範囲内のものである。」(審決書12頁2~4行)との判断に、誤りはない。

2  取消事由2(相違点ロについての判断の誤り)

引用例発明3が、スパッタリング装置において複数の基板の被形成面を鉛直方向に配向する構造の保持手段を開示するものであることは、当事者間に争いがない。

そうすると、スパッタリング装置におけるそれらの保持手段を、基板表面への薄膜形成という共通の技術分野に属する引用例発明1に採用することは、前記で述べたことと同様に、当業者にとって容易なことといえるから、審決の認定(審決書12頁8~11行)に誤りはない。

3  取消事由3(顕著な作用効果の看過)

以上のとおり、本願発明と引用例発明1との相違点は、いずれも従前の技術常識並びに引用例発明2及び3の技術を採用することにより容易に到達できる範囲内のものである。

したがって、それらを採択したことによる効果すなわち本願明細書に記載された効果も自ずとその範囲内のものであり、格別のものとは認められないから、「それを採択したことにより奏する効果も予測し得る範囲のものであって、本願発明の効果もその域を出るものではない。」(審決12頁20行~13頁2行)との審決の判断に誤りはない。

4  以上のとおり、原告の取消事由の主張はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

平成2年審判第20029号

審決

神奈川県厚水市長谷398番地

請求人 株式会社 半導体エネルギー研究所

東京都港区西新橋2丁目15番17号 レインボービル8階 鴨田国際特許事務所

代理人弁理士 鴨田朝雄

昭和62年 特許願第229329号「被膜形成装置」拒絶査定に対する審判事件(平成5年5月17日出願公告、特公平5-32473)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

1、手続の経緯・本願発明の要旨

本願は昭和54年8月16日に出願した特願昭54-104452号の一部を分割出願した特願昭57-192055号出願の一部をさらに分割出願したものであって、その発明の要旨は、当審において出願公告された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「互いに遮断できるようになっている複数の反応室と、該反応室と反応室の間において、大気から遮断された状態で基板を移動する搬送手段とを有し、各反応室が、該反応室内に反応性気体を導入する気体導入手段と、該反応室内の気体を排気する排気手段と、該反応室内に導入された反応性気体を分解・活性化する誘導エネルギーを供給する手段とを有し、前記反応室毎に個別的に反応性気体の反応を生じさせるようになっている被膜形成装置において、前記搬送手段は、複数の基板の被形成面を鉛直方向に配向する構造の保持手段を有し、該保持手段を一の反応室から他の反応室へ順次移動するようになっていることを特徴とする被膜形成装置」

2、引用刊行物及びその記載内容

これに対して、特許異議申立人 斉藤真人が引用した、本出願前に頒布された甲第1号証ないし甲第3号証刊行物には、それぞれ下記の記載がある。

<1>甲第1号証{実願昭52-54176のマイクロフィルム(実開昭53-149049号全文明細書)}

<A>「開閉自在の仕切弁にてたがいに気密に隔離される複数個の連接された真空チャンバーと、これら真空チャンバー内を貫通しその床上に敷設された一連のレールと、レール上を移動可能にされ受動ピンをもつ試料積載用台車と、各真空チャンバーごとに設けられ外部モータによって気密真空壁貫通駆動軸を介して駆動されるエンドレス駆動ピン送り装置とよりなり、前記受動ピンをこの駆動ピンに係合させてなる真空装置における試料搬送装置」(実用新案登録請求の範囲)

<B>「この考案は試料に真空蒸着、イオンスパッタリングなどの表面処理を施す場合の真空装置における試料の搬送装置に関するものである」(第1頁第16~18行)

<C>「この考案は表面処理などの装置を併設した真空装置の前後にも真空チャンバーをシリーズに配設し、従来のバッチ方式での処理を多大の設備費をかけることなく連続方式に近い方式で行えるようにした生産性のすぐれた真空装置における試料搬送装置を提供することを目的としたもの」(第2頁第6~11行)

<D>「つぎにこの真空装置における試料搬送装置の動作について説明する。この真空装置の真空チャンバーの(B)室および(C)室に表面処理装置たとえば蒸着装置が併設されているものとすると、真空チャンバーの(A)室は試料搬入室、(D)室は蒸着処理ずみの排出準備室であり、(B)、(C)両室が第1蒸着、および第2蒸着処理室となる」(第5頁第12~18行)

<E>「各真空チャンパー(4)の出入口にそれぞれ設けられている蝶番形仕切弁(3)の開閉は台車(4)の送り込み動作と連動して行われ、前記台車(4)の送り込み動作が反復繰りかえされ、(A)室から(C)室までに試料を積載した3台の台車(4)がおさめられることとなる」(第7頁第17行~第8頁2行)

<F>「真空チャンバー(1)の(A)~(D)の空気が排出され、10-4mmHg程度に真空状態が造り出されると、つぎに(B)にて第1の蒸着処理、ついで(C)室にて仕上げ蒸着処理が併設したそれぞれ蒸着装置によって行われる。」(第8頁第5~9行)

<G>「各真空チャンバー(1)間の台車の出入、外部と真空チャンバー(1)間との台車の出入にあっては、気圧のバランスを十分に考えた上真空装置の効率的な運転を考慮して、たとえば運河の閘門を出入りする場合の水位の調整と対比される気圧の調整がなされることはいうまでもない」(第8頁第15~20行)

<H>「従来の試料を容器内に収め、容器毎に10-4mmHg程度の真空状態を造り出し、さらにこの実施例におけるように蒸着を2段階で行うバッチ方式の場合には(T0+T1)時間の2倍近い時間を要する。したがって、2(T0+T1)/T0もしくは2(T0+T1)/T1倍近くの同様処理装置を数多く設置しなければこの考案の装置と同等の生産をあげることができない」(第9頁第18~第10頁5行)

<2>甲第2号証(特開昭53-89667号公報)

<I>「従来、この種のプラズマCVD装置は第5図に示すようベルジャ52内の下部にサセプタ63を配置し、この上方位置に対向させてシャワ杆53を吊り下げ、このシャワ杆53からモノシラン(SiH4)などシリコン系反応ガスをウエーハ66に向けて注げるようにし、さらに、ベルジャ52の天井に反応ガス導入口60をあけ、ここからベルジャ52内に窒素(N2)など窒素系反応ガスを投入し、この反応ガスを励起する誘導コイル59をベルジャ52外に巻装させて、この誘導コイル59により励起させた窒素(N2)ガスをモノシラン(SiH4)と反応させてウエーハ66上にシリコン・ナイトライド膜を生成させている」(第1頁左下欄末行~右下欄第12行)

<J>「第1図において、このプラズマCVD装置1は、装置主要部となるベルジャ2を有し、このベルジャ2の外部には反応ガス供給部3、RF発振機4、排気ポンプ5を適宜に配置している。そして、反応ガス供給部3は窒素(N2)など窒素系反応ガスを貯えたボンベ6とモノシラン(SiH4)などシリコン系反応ガスを貯えたボンベ7と、これらのボンベ6、7から供給される反応ガスの量を調節するガスコントローラ8を有し、これをベルジャ2上部につないで、ベルジャ2内に両反応ガスの投入が図れるようにしている。またRF発振機4は、ベルジャ2の外側に巻装したRF誘導コイル9につなぎ、ベルジャ2内に投入した窒素(N2)ガスを励起できるようにしている。さらに、排気ポンプ5は、ベルジャ2の下部とつなぎ、いらなくなった反応ガスを排出できるようにしている」(第2頁左上欄第14行~右上欄第11行)

<3>甲第3号証(米国特許第4116806)

<K>「本発明で使用される典型的な装置が図1及び2に示される」(第3欄第53~54行)

<L>「スパッタ装置の通常運転時において、2枚の基板13はプレーナマグネトロンカソード15の両側のターゲット面20から同時に内側表面19上に成膜される。基板13は成膜工程中は台車25に載置されて搬送され、その台車25は走路部27の上を転がる車輪26上で支持されている」(第4欄第3~9行)

3、対比

まず甲第1号証に記載の技術を、本願発明と対比すると、両者は、互いに遮断できるようになっている複数の真空室と、該真空室と真空室の間において、大気から遮断された状態で基板を移動する搬送手段とを有し、前記搬送手段は、一の真空室から他の真空室へ順次移動するようになっていることを特徴とする薄膜作成装置であるが、つぎの点で相違する。

イ)真空室について、

本願発明では、

<1>真空室が反応室であること、

<2>各反応室が、該反応室内に反応性気体を導入する気体導入手段を有すること

<3>各反応室が該反応室内の気体を排気する排気手段を有すること、

<4>反応室がその内に導入された反応性気体を分解・活性化する誘導エネルギーを供給する手段とを有し、前記反応室毎に個別的に反応性気体の反応を生じさせるようになっていること

であるの対し、甲第1号証には、このような点については直接的或いは具体的記載がない点。

ロ)搬送手段ついて

本願発明では、複数の基板の被形成面を鉛直方向に配向する構造の保持手段を有するとしているの対し、甲第1号証では、基板の保持手段について具体的開示はなく、本願発明の構造を示すところがない点。

4、判断

そこで、両相違点について検討する。

1)イについて

甲第1号証における表面処理による膜形成について具体的に開示されている処理は真空蒸着及びイオンスパッタリングであり、それらはいずれもいわゆるPVDに属するものではあるが、同号証にはそれに限られるような記載はなく、前掲摘示した<B>の記載からみて、前掲摘示した<C>のバッチ式による同種の問題のある技術は、対象範囲となっていると解することができる。

そして、プラズマCVDにより多層膜を形成すること及びその際には前掲<C>と同様の問題が存在すること自体は本願発明における新しい知見ではなく、それが従前から知られていたことは本件請求人も否定するところではなく、さらにプラズマCVDを含むCVDとPVDは膜形成という同一の技術分野に属するものである。

してみれば、甲第1号証における膜形成手段を有する室を反応室とせしめことはもともと同号証の開示していた範囲内もしくは自ずと到達し得る範囲のものである。

また、前掲摘示した<G>からみて、各真空室は個別の真空を維持されているとも解されるし、あるいは前掲<A>に摘示したように、各真空室は「仕切弁にてたがいに気密に隔離される」ものであって、前掲<H>等からして各室ごとに個別の処理が行われるものであることからして、各真空室に個別に排気手段を設置することはもともと同号証の意図している範囲のものもしくは同号証の記載から、自ずと到達する範囲のものである。

さらに前掲摘示の<F>に示されるように膜形成を行う室においては、それに必要な手段はその室毎に具備されていることからして、甲第2号証から摘示した<I><J>に示されるようにプラズマ反応には反応性気体を導入する気体導入手段及び導入きれた反応性気体を分解・活性化する誘導エネルギーを供給する手段を具備せしめるものであるから、それらを甲第1号証の膜形成を行う室に具備せしめ、前記室毎に個別的に反応性気体の反応を生じさせるようすることもごく自然に到達するところである。

以上のとおりであるから、前記差異はいずれも格別のものではなく、当業者が適宜採択し得る範囲内のものである。

2)ロについて

甲第3号証の前掲摘示した記載並びにその第1及び2図の記載から明らかなように、同号証には複数の基板の被形成面を鉛直方向に配向する構造の保持手段を有する搬送手段が記載されており、それは本願発明及び甲第1号証のそれと同じ基体表面への薄膜形成用のものであろから、同甲号証の搬送手段に代えこれを採用することは別段工夫を要することではなく、当業者が適宜採択し得る範囲のものである。

以上のとおりであるから、本願発明と甲第1号証に記載の技術との差異は、従前の技術常識を踏まえれば自ずと到達し得る範囲のものあるいは甲第2及び3号証に記載の技術から適宜採択し得るものであって、その差異は格別のものではない。

また、それを採択したことにより奏する効果も予測し得る範囲のものであって、本願発明の効果もその域を出るものではない。

5、結論

したがって、本願発明は、本出願前に日本国内において頒布された引用例に記載された発明に基づいて、当業者が本出願前に容易に発明することができたものと認められるから、特許法第29条第2項に規定より、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成6年11月22日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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